ARTICLE NUM:007
歯科衛生士/若月 真実さん
歯科衛生士の仕事にも、
がん治療で役立てることがある。
——若月さんが、がんセンターでのお仕事を選んだ理由を聞かせてください。
若月さん(以下W):短大を卒業してしばらくは、普通の開業医さんの歯科診療所に勤務していたんですけど、4年目のときに私の親戚ががんになってしまったんですね。そのとき、「歯科衛生士という仕事には、がん治療で何かできることがあるのかな?」と考えたんです。ちょうどそのタイミングで、私の母校の短大にがんの専攻科ができたんです。そこでその専攻科に入り直したんですよ。
——じゃあお仕事を一度辞めて?
W:そうなんです。卒業した学校にもう一度入って、勉強や病院実習をさせてもらって、それからここに入ってきたんです。
——具体的にどんな勉強をするのでしょうか?
W:がんがいったいどんな病気かとか、がんの他にも全身疾患と歯科の関係を勉強したりとかですね。あとは病院実習で3つの病院に行って、実際にがん患者さんの診療に携わりました。やはり開業医で診る患者さんと病院で診る患者さんは違うので、その部分をしっかり自分の目で見て学ぶということをしていました。
——違いというのは、どんなことを感じましたか?
W:お口の中の変化や薬の副作用ももちろんですけど、普通の開業医の歯科医院に通う患者さんって、歯を治そうと思って来る、モチベーションのある患者さんが多いんです。でもがん治療の患者さんは、主治医の先生から「治療をする上でちょっと歯科にかかってきてください」と指示されて来られる場合が多いので……。
——ポジティブな気持ちで来ているとは限らない。
W:そうなんです。「どうして歯医者に来なきゃいけないんだろう」と思っている方もいらっしゃいますし、そうなると思い通りに口の中がきれいになっていかないということもあるので。そのへんの患者さんとの接し方は、他のところとは違って難しさを感じますね。
——抗がん剤とか癌治療の副作用で、口の中の状態が悪くなるんですか?
W:抗がん剤を投与すると免疫が下がったりして、今まで腫れていなかったところが腫れたり、あと薬の副作用で口内炎ができると、小さいものだけじゃなくてお口の中の全部が口内炎みたいな感じになるんですよ。5センチとか10センチとかの大きな。
——それはまともにものを食べれないですよね……。
W:食べられないです。それでも頑張って食べている人もいます。抗がん剤の治療をして血液のデータが上がって少しずつ抵抗力が戻ってくると、口内炎もだんだん治まってくるんですけど、薬を入れるとまたなるんです。もちろん、必ず出るというわけではないんですけど。
「ここに来てくれたときに、私たちがしっかりきれいにしてあげる感じです。」
——毎日のお仕事の内容を教えてください。
W:入院中の患者さんや外来の患者さんの口腔ケアですね。入院中の患者さんで身体を動かせない場合は、病室に直接行ってお口の中のお掃除をするときもあります。手術の前後は高い頻度で行って、お口の中をきれいにしますね。
——がんの手術や治療の前に歯をきれいにしておくのは、とても大切なことなんですか?
W:そうですね。肺炎や術後の感染症予防や、口内炎などのお口の合併症を軽減させるという意味で、今すごく大事だといわれています。これらのリスクが減るとがんの治療もスムーズに進みますし。
——患者さんとの接し方で気をつけていること、心がけていることはありますか?
W:特別なことをするわけではないですけど、なるべく寄り添って、優しく。患者さんの方から「身体のこういうところが大変で」とかそういう話をしてくれるときもあるので、できるだけちゃんと話を聞いています。それから、物事をあまり強く言わないこと。「もっと頑張って歯みがきしましょう!」とは、思うことは思うんですけど、強く言い過ぎないように心がけています。
——今はそれどころじゃない、と感じる患者さんも多いでしょうし。
W:そうなんですよ。だからここに来てくれたときに、私たちがしっかりきれいにしてあげるような感じでいます。
「小さいときに通った歯科医院の記憶。寄り添ってくれた歯科衛生士さんに憧れて。」
——歯科医師の先生やまわりのスタッフの方とのコミュニケーションはいかがですか?
W:うちは当番制で複数の非常勤の先生が来られるので、患者さんに関することや医療上の情報共有はマメにすることにしています。看護師さんや医療スタッフの方とは、最初は会話をする上で専門用語の壁は感じましたが、自己学習やわからないことは積極的に訊ねることで解消してきました。今では良好です。
——ところで歯科衛生士になると決めたのは?
W:決めたのは高校2年のときですけど、興味を持ったのは保育園の頃ですね。私、小さいとき本当にむし歯がいっぱいあって歯医者さんに行っていたんです。でも治療が嫌いで(笑)。そのときにずっと担当でついていてくれた歯科衛生士さんに、今でも顔とか髪型とか覚えているんですけど、漠然とした憧れがあったんです。それで高校生で進路を考えるとき、「あの仕事は何だったんだろう」って調べて、歯科衛生士という職業を知ったんです。
——歯科衛生士は働き方にけっこう融通が利く仕事、というふうに聞いています。
W:それはこの職場でもいえることですね。私は今、独身でひとり暮らしでフルタイムで働いていますけど、一緒に仕事をしている方はご家庭があってスポットで来てくれていたりしますし。結婚や出産、子育てといったライフステージに合わせて勤務ができる仕事だと思います。
——けっこう忙しいですか?
W:まあ、ユルいかユルくないかといったら、ユルくないですね(笑)。毎日忙しく働かせてもらっています(笑)
——でもやり甲斐はありますよね。
W:治療中に「痛い」「つらい」という話をしていた患者さんが、退院して日常生活に戻って外来で来られたときに「最近、ここに行ってきたんだよ」って楽しそうに写真を見せてくれたり、普通の会話ができたりすると、がん治療の手助けができたんだなって思って、やっててよかったと素直に感じますね。
「自分のやり甲斐を見つけられれば、ずーっと、本当に長くできる仕事です。」
——これからどんなふうにスキルアップしていきたいと思いますか?
W:口腔ケア学会に所属しているんですけど、その中で上の資格を取得したいと思いますし、がんの知識にしても、その背景にある生活習慣病のこととか、本当にいろんな病気のことをわかっていないといけないので、それをちゃんとインプットして、誰か後輩ができたときにアウトプットできるようにしたいです。
——勉強はどうやってしているんですか?
W:本を買って調べたりもしますし、私、妹が看護師なので、わからないことは気軽に聞けるんです。もちろんここの先生にも聞けるので、勉強をする環境には恵まれているのかなと思います。
——これから歯科衛生士を目指す高校生に伝えたいことがあればぜひ教えてください。
W:歯科衛生士はやっぱり身近な医療職なのかなと思います。お医者さんや看護師さんだとちょっと敷居が高い感じがするけど、歯科衛生士さんって割と気軽に話せる存在なのかなって。それに、医療職という点では安定していると思うし、その中で自分のやり甲斐を見つけられれば、ずーっと本当に長くできる仕事だと思うので。頑張ればみんななれると思いますよ。私でもなれたので大丈夫(笑)
——本日はありがとうございました。
DR+DH+DT WORK STYLE
新潟県立がんセンター新潟病院
若月 真実(Mami WAKATSUKI)
日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科卒業。歯科診療所で4年間勤務後、同校に開設された「がん関連口腔ケア学専攻」に入学。修了後、新潟県立がんセンター新潟病院口腔外科に勤務。がん患者さんに寄り添う口腔ケアを心がけ、がん治療における有害事象軽減の為の口腔衛生管理を担っている。
インタビュー収録:2021年2月