ARTICLE NUM:009
歯科衛生士/平野 恵実さん
歯科衛生士の大きな可能性。
後輩指導をしながら伝えたいこと。
——まずは、平野さんの普段のお仕事について教えてください。
平野さん(以下H):基本的には歯周治療が主な仕事です。それ以外ですと、学生教育、後輩育成ですね。学生教育は短大の学生さんを教えたり、治療現場で一緒に患者さんを診たりします。
——患者さんというのは、実際に病院で歯科治療を受ける患者さんですよね?
H:そうです。私が患者さんを診て、学生さんにアシストについてもらうかたちですね。診療が終わってから、学生さんの指導を、という流れが多いです。事前に患者さんの情報を伝えることもありますが、時間がなくていっぱいいっぱいだと、診療が終わってから振り返って学生さんに説明をします。
——学生さんはしっかりと理解してくれますか?
H:皆さん、歯科衛生士になりたくて勉強している子たちなので、まじめに話を聞いて理解してくれますよ。
——平野さんのお仕事を見て、あるいは指導を受けて、学生さんから何か言われることはありますか?
H:占い師さんみたい、と言われることがよくあります(笑)
——え、占い師(笑)?
H:後輩を指導するときですけど、その子の性格や人となりを見ながら教えるので、その人がこれまでやってきたこととか、思っていることを指摘すると当たるんです。
——ああ、なるほど。平野さんの経験上、何が原因でどういう思考なのか、見ていればその因果関係が分かるということですね。平野さんご自身は、ずっとこちらの日本歯科大学新潟病院に?
H:はい、最初の3年間は総合診療科、それから1年間小児矯正科で仕事をして、またそれ以降は総合診療科に勤めています。
——得意なお仕事、やっていて楽しいお仕事は何ですか?
H:患者さんのブラッシング指導ですね。どういう道具を使って、どういうふうにブラッシングすると歯の汚れが落ちるのか、きちんと教えるのが好きです。
——道具というと例えば? 歯ブラシだけじゃダメなんですか?
H:歯ブラシの他に、フロスと歯間ブラシ、あとタフトブラシという三角形のブラシもあります。これは歯ブラシでは落とせないような汚れを落とすのに使います。
——寝る前に1〜2分でちゃちゃっと磨いて、はいおしまい、ということではやっぱり足りないですか? 汚れは落とせないですか?
H:うん、落とせないですね。歯と歯の隙間のプラークは半分も落ちないと思います。歯ブラシを先に使うと手が疲れてしまうので、まずその前に歯間ブラシやフロスをしてからの方がいいと思います。
——なるほど、そういうアドバイスを患者さんにされるわけですね。
H:そうそう(笑)。そういうことです。
「患者さんひとりひとりの性格に合わせて、接するようにしています」
——一般のクリニックと大学病院では、職場環境や診療について違いはありますか?
H:やっぱりここの病院は大学病院でもあるので、学生教育が主体となっています。なので、一般の開業医さんよりも時間をかけて患者さんおひとりおひとりを診ていると思いますね。
——患者さんとの接し方で気をつけていることはありますか?
H:患者さんそれぞれの性格を見ながらやっています。たくさん話してもらいたい、という患者さんがいれば、静かにやって欲しいという人もいるし、しっかりと診ますよ、という雰囲気を求めて来られる人もいます。フランクに話したい感じの患者さんには、治療の状況とか最近の口の中の状態、それだけでなく普段の楽しいこととか、私生活のこととか、いろいろ話しますね。
——どの患者さんがどんな性格で、というキャラクターはおぼえていられるものですか?
H:だから、全部メモに控えています(笑)
「短大時代のいちばん大切な同期と、今も同じキャンパスで働けるのが嬉しい」
——平野さんが歯科衛生士になろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか。
H:高校生のときはまだ将来自分が何をしていいのか分からなかったんですよ。何でもいいかな、と思っていて。そんなときに、友達のお母さんから歯科衛生士という仕事があることを教えてもらったんです。私、高校生のとき映画館で接客のアルバイトをしていたので、人と接するのは好きだったんですね。それで「歯科衛生士にはそういう側面もあるし、向いているんじゃないの?」って言ってもらって。それで短大の見学に行って。当時はまだオープンキャンパスというものがなかったと思うんですよ。個人的に見に行って、ここがいいな、と思って入学しました。
——歯科衛生士の勉強はどうでしたか?
H:小中高と、私はそんなに勉強ができる子ではなかったんです。でも歯科の勉強ってみんながゼロからのスタートじゃないですか。今から頑張ってもなんとかなると思って。授業はほぼ毎日実習がありましたけど、楽しかったですね。大変だったけど、すごく楽しかったです。
——楽しかったということは、きっと同期の友達にも恵まれたのではないですか?
H:そうですね、いちばん大切な同期の友達が、今、短大で働いているんですよ。学生時代のときからずっと頼りになる子で。今も一緒に同じキャンパスの中で働けるって嬉しいですね。仕事の愚痴もこぼし合えるし(笑)。プライベートでもよく会ったりしています。
——それは素敵な関係ですね。国家試験はスムーズに受かった感じですか?
H:そんなに覚えていないんですけど……(笑)、それなりに勉強はしましたね。私たちの時代は実習が12月に終わって、それからひたすら受験勉強で、過去問に取り組んだりしていました。
「歯科衛生士は、歯科医師の先生と同じように、歯の病気を治したり防ぐことができる」
——歯科衛生士の仕事は大変ですか?
H:私はそんなに大変だと感じたことはないですね。
——やっぱり、口の中をキレイにするって気持ちがいい?
H:気持ちいいです(笑)
——即答ですね(笑)。立ち仕事や細かな手先の仕事が多くて疲れることもあると思いますが、身体のケアはどうされていますか?
H:肩が痛かったり、腰が痛かったり、あとたぶん私の仕事の姿勢が、普通のいい姿勢じゃなくて、独特の姿勢になってしまっているので、そのせいで身体に負担がかかっているんですよ。なので定期的に整体に通うようにしています。1ヶ月に1回とか、痛みがあるときは1週間に1回とか行っていますね。
——普段、お仕事のやり甲斐を感じることはありますか?
H:患者さんから「あなたがいるからここに来ているんだよ、あなたが辞めたら来ないから、ここにずっといてね」と言っていただいたときとかですね。担当の患者さんとは長いお付き合いになるので、信頼関係がどんどん深まっていきます。あと、後輩指導に関して言えば、実習生だった子が社会に出て働きはじめてから、「教えられたことが役に立っています」とか「あのときは分からなかったけれど、やっと分かるようになりました」と言われると嬉しいです。そうやってできなかったことができるようになっていく姿を見守るのも楽しいんですよ。
——今の短大の実習生たちを見て、感じることはありますか?
H:うーん、「みんな80点でOK」と考えるタイプの子が多いかな。何かひとつだけ100点とか、自分にしかできないっていう長所を持っている子よりも、平均的になんでもできる子が多いんですね。それで「もうこれでいい」と思っちゃっている子もいるので、何かひとつでも自分の強みみたいなものを持って欲しい、そのために努力して欲しいと思います。
——これから歯科衛生士を目指す高校生に伝えたいことがあればぜひ教えてください。
H:私が専攻生のときに教えてくれた先生に言われたのは、「歯科衛生士って患者さんを治すことができるんだよ、歯科医師の先生と同じように歯周病を治せたり、歯の病気の予防ができるんだよ」っていうことです。実際に、歯科衛生士にはできることがたくさんあるんです。やり甲斐があるし、私自身、そういう歯科衛生士になりたいと思っています。それを伝えたいですね。
——本日はありがとうございました。
DR+DH+DT WORK STYLE
日本歯科大学新潟病院
平野 恵実(Emi HIRANO)
日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科卒業。日本歯科大学新潟短期大学専攻科(旧歯周治療科)入学。修了後、日本歯科大学新潟病院に勤務。総合診療科、小児矯正科配属を経て、現在、総合診療科に配属。日本歯周病学会認定歯科衛生士を取得し、歯周治療を主に行っている。
インタビュー収録:2021年11月