特別対談「これからの歯科の話をしよう」後編
歯科を志す若者に伝えたい言葉。
愛される歯科医師になるために必要なこと。
歯は一度失うと、同じものが自然に再生されることはありません。そのため「補綴物(ほてつぶつ)」と呼ばれる、歯の被せもの、詰めもの、入れ歯などが必要になります。そこで活躍するのが、そういった物を作ったり加工・修理する専門の「歯科技工士」です。
歯科医師の指示をもとに歯科技工士が作るのは、患者さんの治療に必要な被せものや詰めもの、歯を失ったときに必要な入れ歯、歯並びを治すときに使う矯正装置などです。その多くは指の先ほどのとても小さなもの。患者さんの口の中を型どりした石膏模型を使って、ひとつひとつ、丁寧に作り上げていきます。ひとの歯はそれぞれ形や大きさが違うので、すべてがオリジナル。つまり、歯科技工士の仕事はどれも職人芸なのです。
職人の世界には、得意な分野がそれぞれにあります。オールマイティに様々な種類の技工物の製作を行う歯科技工士もいれば、ひとつの技術に特化した製作を行う歯科技工士もいます。歯科医院内の技工室と呼ばれる場所で勤務していれば、来院した患者さんの診察に立ち合い、技工物の修理や調整を行なうこともあります。
デジタル技術が進歩した現代社会において、歯科技工士の仕事の内容はどんどん発展しています。そこでは3Dプリンターなどのテクノロジーを活用したり、CADを用いたデザインを主な仕事としている技工士もいます。個人のスキルや得意分野をいかすことで、働き方はこれからますます多様になっていくと考えられています。
インレー
一般に「詰めもの」と呼ばれているものです。部分的に失った歯の一部を補完するのに使われます。
クラウン
一般に「被せもの」と呼ばれているものです。「銀歯」「金歯」がイメージしやすいかと思います。他にも、樹脂や陶材を使って本物の歯のような色彩に作られるものもあります。
全部床義歯(総入れ歯)
歯が一本も無くなった場合に使われる入れ歯です。部分的に失われた歯の機能を回復するため、残っている歯などを支えにして装着する「局部義歯(部分入れ歯)」もあります。
インプラント
失われた歯の顎骨に金属の支柱を埋め、それを支えにして歯の形や機能を回復するものです。手術に使われるガイドやクラウン、義歯など歯科技工士が製作します。
歯科技工士が作るのは、口の中で歯の代わりになったり、歯の機能をサポートするとても精密で精巧なものです。そのため、手先が器用だったり、ものづくりが好きだったり、ひとりでコツコツと努力を積み重ねられる人が向いているといえるでしょう。また、デジタルの知識も大きなアドバンテージになります。
歯科技工士になるには、まず高校卒業後、歯科技工士養成科のある専門学校や大学、短大に入学して、定められたカリキュラムを学び、必要な知識と技能を習得し国家試験の受験資格を得る必要があります。大学の場合は4年制、短大の場合は2年制、専門学校は昼間であれば2年制、夜間であれば3年制のところが一般的です。歯科技工士の学校では、技工技術や基本的な歯科知識、材料の特性などを学びます。はじめから歯科知識や技術を持っている人はほとんどいません。座学だけでなく実技実習や実験などを通して、歯科技工士としての技能を身につけていきます。国家試験は、筆記試験と実技試験があります。それに合格し、歯科技工士免許が交付されると、晴れて歯科技工士として働くことができるのです。国家試験の合格率は約95%(近5年)。しっかり勉強して技術を身につければ、高い確率で合格できます。
主な就職先は、歯科技工所や病院、歯科医院内の技工室となります。その他、材料メーカーや製薬会社など、一般企業への就職もあります。
歯科技工所は、様々な医院からの技工作業を引き受けて製作する職場です。そのため、それぞれの技工所が特化している仕事が中心になるので、おのずと専門性が高まります。
歯科医院内の院内技工室では、院内の仕事を引き受けるため、オールマイティに経験を積むことができます。歯科医院では患者さんと直接接する機会もあるので、自分が作った物が装着される場に立ち会うことができます。
世界的に「日本の歯科技工士はレベルが高い」といわれていて、海外に勤務する技工士も少なくありません。また、勤務する以外にも、個人で開業することができるので、自分のスキル次第で活躍の場を多様に広げることができます。