国家資格を取得してからのお話。

歯科の仕事、生活と収入。
そして独立開業への道。

歯科の学び|2021.10.06

教育機関でしっかりと勉強をして、国家資格を取得して、晴れて「歯科医師」「歯科衛生士」になったら、それからどんな生活が待っているんだろう。学ぶことに精一杯で、その先のビジョンがまだ描けない、という学生さんは少なくありません。今回は、歯科の仕事の生活や収入、そして独立開業のお話です。

年収はさまざま。努力はちゃんと報われる。

「歯医者は金持ち」という漠然としたイメージが先行しがちですが、正直なところ、歯科医師の収入は働き方によって様々です。今は「歯科医師になれば成功が約束されている」というような時代ではありません。そんなに甘い世界ではないのです。それでも、高収入を得て充実した生活を手に入れる歯科医師は大勢います。専門分野を開拓したり、新しい治療法を導入したり、常に学び、患者さんのために努力を積み重ねることが成功の秘訣といえるでしょう。厚生労働省の賃金構造基本統計調査などを参考にした職業別の平均年収は下の資料1を見てください。

 

自宅と職場の距離感は? 

勤務医や、歯科医院などに通う歯科衛生士、技工所に通う歯科技工士の多くは、一般の会社勤めと同じように、自宅から職場へと毎日通うことになります。 ちなみに歯科医師が独立開業をする場合、かつては自宅とクリニックを隣接して建てたり、自宅の一部を診療所にすることが多かったようですが、最近では住む場所と働く場所を切り離してクリニックを建てる歯科医師も多く見受けられます。歯科医院に勤務する場合でも、公務員や一般企業のような単身赴任や遠方への転勤はまれで、基本的には自分の暮らしたい場所で、不便なく通える通勤圏で快適に生活を送っている人がほとんどのようです。

 

基本は昼型の生活パターン。診療時間後に頑張る若手も。

歯科医院や大学病院は診察時間が決まっているため、歯科医師や歯科衛生士の仕事の多くは、朝から夕方までが仕事時間となります(資料2参照)。 例えば9時に診療が開始となる場合、8時頃に出勤、医院内でミーティングが行われ、それから午前の診察。昼休みをはさんで午後の診察が始まり、夕方18時頃に診察時間終了。その後は清掃やカルテの整理を済ませて帰宅、というパターンが一般的です。(夜間診療を行う歯科医院もあります。)

まだ若く診療に慣れないうちは、診療時間終了後に先輩のドクターの指導を受けたり、医療機器を取り扱う練習に励むことがあります。また、休日に学会やセミナーに参加したり、開業をしてからも仲間たちで集まって勉強会を開き、お互いに情報交換をしたり刺激し合うこともあります。本人の学ぶ意欲次第で、どんどんスキルアップできるチャンスが訪れます。

人生のステージに合わせて働ける。

歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士の国家資格は、一度取得すれば、その先ずっと有効です。 女性の場合、結婚や妊娠、出産、子育ての期間、ずっとフルタイムで働くことは難しいですよね。何年か仕事をお休みをしてから復帰、ということもあります。そういった場合でも、その時々のライフステージに合わせて、限られた曜日、時間帯で働くことが可能です(資料3参照)。また、国家資格をもった歯科医師には、一般の会社員のような「定年」はありません。自分のペースを守って診療をずっと続けることも、早めにリタイヤをすることも、すべては自分次第です。

コンビニより多い歯科クリニック。でもその実態は……

「日本の歯科医師は多過ぎて、歯科クリニックはコンビニよりも多い」といった内容のネットや週刊誌の記事を目にしたことはありますか? 日本の歯科医師の数は10万1,777人(※1)で、歯科診療所は約6万8千件。コンビニは約5万5千件ですから、確かに、コンビニよりも歯科診療所の方が多いのは事実です。でも数字を検証すると「供給過多」とは違う現実が見えてきます。 コンビニは毎日数えきれないくらいたくさんのお客さんが訪れますが、歯科クリニックで毎日診察できる患者さんの数は限られていて、平均20人程度です。ちなみに人口10万人に対しての医師数は約250人なのですが、歯科医師数は約80人。それを考えると、この数は多いのではなく、妥当かむしろ少ない数字と考えられます(資料4参照)。

しかも、歯科医師の年齢を比較をすると、実は今、60代以上の歯科医師がどんどん増加しているという状況です。つまり、「もうすぐ引退する歯科医師が増えている」ということ。供給過多どころか、実際は「20年後には歯科医師が不足する」との試算も出ています(※2)。また、都心部で過剰な印象を受ける歯科クリニックであっても、地方では逆に不足している地域が多く見受けられるのが現状です。

※1 厚生労働省2018年 ※2 国立保健医療科学院 厚労省WGにて

独立開業に最低限必要な、資金と設備。

歯科医院を開業するには、「資金」と「設備」が必要です。 もし「親が経営している歯科医院を継ぐ」という場合には資金がかからない場合もありますが、新しい歯科医院をイチから始める場合は、土地や建物(賃料や保証金)、内装工事費、広告宣伝費、当面の運転資金(経営が軌道に乗るまでの家賃、材料費、スタッフの給料など)が必要になります(資料5参照)。

特に大きいのは「設備」に関する負担です。診療ユニットやレントゲンなど、歯科の仕事には欠かせない機器類が多くあり、最先端の治療を行おうとすると性能のよい新しい機材を揃えねばならず、当然高額になります。また、電子カルテや会計システムといった診療以外の機器、消耗品も必要になります。

新しく開業をする場合には、設備投資として、数千万円がかかるといわれています。銀行などから資金を借りた場合は、診療をしながら返済をしていかなければなりません。そのためにはしっかりとした計画を立て、地域のニーズに合わせた診療を行ったり専門性をアピールするなど、院長自身の創意工夫や努力が不可欠です。

 

自分の歯科医院を開業する場合は、同じエリアのたくさんある歯科医院の中から患者さんに選ばれ、信頼されることが大切になります。そのためには、自分なりの「専門性」や「独自性」といった個性を伸ばすことが強みになります。「いつか自分が開業するならこんなクリニックにしたい」という未来のイメージを想像してみてください。そのために必要なことが何かわかれば、おのずと勉強に対するモチベーションもアップするはずです。