ARTICLE NUM:002

歯科技工士/山添 由香さん

患者さんの近くで、
患者さんの健康に役に立つ仕事を。

DR+DH+DT WORK STYLE|2021.04.26

――歯科技工物というと、どんなものを作っているのでしょうか。

山添さん(以下Y):いろいろあります。歯の詰めものや被せものなど、院内でできるものはここで製作していますし、そうでないものは外注の歯科技工所に出したりしています。

――山添さんが働いている歯科医院のラボと歯科技工所ではやっていることが違うのですか?

Y:技工所さんに勤務する人は、クラウン系(被せもの)をやるか、義歯(入れ歯)をやるか、分野を選択して、より専門的にどちらかのプロになっていきます。対して歯科医院のラボに勤めると、ひと通りのことがオールマイティに全部できるような歯科技工士になります。

――基本的には作業はすべて手作業ですか?

Y:最近ではCAD/CAMを使った作業も増えていますが、基本的には手作業ですね。バランスよくなんでもできるように技術を磨いています。作り慣れたものはだんだん得意になっていきますね。

――その技術はどのように身につけたのでしょう。

Y:学校で学ぶことは基礎中の基礎なので、実際に職場に来てから先輩に学ぶことが多かったですね。私が入ったときは先輩の技工士さんがいて、最初の3年間は先輩にいろいろ教えていただきました。

――就職で歯科医院のラボを選択したのは、何か理由がありますか?

Y:技工所か院内ラボか、どっちに行くかは歯科技工士としての人生が決まってくる大事な選択なんですが、私は患者さんの近くで患者さんの役に立つような仕事をしたいと思ったので院内ラボにしました。

――患者さんの声も直接聞けるわけですね。

Y:そうですね、又聞きではなくて、直接「ありがとう」って言われたり、歯科医師の先生や衛生士さんたちから「喜んでいたよ」って言われると、やってよかったなって思います。その言葉が次の仕事のエネルギーになります。

「ちょっとした手直しにすぐ対応できる歯科技工士がいれば、患者さんも安心する」

――歯科技工士がいる歯科医院は、やはり患者さんにとってもメリットがありますか?

Y:例えば入れ歯が割れたとき、修理する人がいればすぐに直ります。でもいなければ預かりになって、その期間、患者さんはうまく噛めなかったりするので、そのタイムロスを埋めるのが、ここにいる歯科技工士の仕事かなと思います。ちょっとした手直しにもすぐその場で対応できます。

――患者さんも安心しますよね。診療中に立ち会ったりもするんですか?

Y:色を見たりとか、装着感がどうかとか、微調整が必要かどうか確認するときなどに、実際に立ち会うことが多いですね。

――うまくいかずに作り直すときもあるんですか?

Y:微調整のときもありますし、最初から作り直すときもあります。

――え、せっかく頑張ったのに。

Y:原因はいろいろあると思いますが、確認不足からそういうことが起こることがあります。それを防ぐためにも、常にドクターや患者さんの意見や要望を聞いておくことは大事です。

「残業や休日出勤にならないように、仕事のスケジュール管理は自分でしています」

――納期が重なったりして残業とか休日出勤とかは?

Y:それはないようにしていますね。もちろん急な修理の依頼とかはありますし、「急ぎでこれを仕上げてほしい」と先生に言われるとそっちの対応に追われることもありますけど、残業や休日出勤にならないように、仕事のスケジュール管理は自分でしています。

――やっぱり良し悪しって材料でも変わってくるんですか?

Y:一概に良し悪しと言えないのが難しいところです。どの材料にも特徴があって、それぞれの患者さんにとってどれを選択することがよいのか考えることはとても重要です。技工サイドから気づくこともあるので、そのときはドクターに提案することもあります。

――歯科医の先生とディスカッションすることもありますか?

Y:それはあります。先生の治療方針や患者さんの要望もありますけど、技工士から「こうしたほうがいいんじゃないですか」と提案をして、話し合うことはよくあります。

――根を詰めて作業すると目や肩が疲れませんか?

Y:ずっと作業に集中して座りっぱなしなので、時間を見て意識的に立ち上がって身体を伸ばしたり、目が疲れないようにしています。ちょっとのミスが大きな影響を与えてしまうので、しっかり集中するために必要な休憩です。

――職業柄ずっと身につけているものとか、持っているものとかありますか?

Y:作業中は粉が舞うので、ずっとマスクをしていますし、手が荒れるのを予防するためのハンドクリームは絶対必要ですね。

「もともと手先は器用な方だし、モノづくりがきらいじゃないので、やってみたら楽しいんじゃないかな……っていうくらいの気持ちで」

――山添さんはいつ頃、歯科技工士を目指そうと決めたんですか?

Y:高校生のときに進路を探していて、歯科技工士の学校があるんだ、って知ったんです。もともと手先は器用な方だし、モノづくりがきらいじゃないので、やってみたら楽しいんじゃないかな……っていうくらいの気持ちで選びました。決めたのは高校3年になってからです。2年間で国家資格が取れて、社会に必要とされる仕事ならと思って選びました。

――ちなみに歯科技工士の世界って、地道にコツコツと積み上げる能力が大事なんですか? それとも、もっとセンスや感性が要求されるような世界なんですか?

Y:どっちもあります。常に技術の向上が求められる大変な仕事ですが、センスも大事ですね。模型通りにカービング(彫刻)したつもりでも、学校の先生には「センスがない」「個性がない」などと言われて、どうしたらいいんだろうと思ったこともありました。

――「もっとここシュッとやって」とか、「ガッと削って」とか、そういう感覚的なことを言われたりもするんですか(笑)

Y:感覚的な指導をする先生もけっこういます(笑)。そう言われても全然わからない…って当時は思ってました。でも社会に出て現場で仕事をしていて微妙なニュアンスをくみ取ることを求められているときもあります。学校での経験はこういったシーンでいかされているなと感じますね。

「歯があってこそ普通の生活ができる。それを助けたり支えたりできるのが自分たちの仕事」

――仕事をしていて焦ることってありますか?

Y:納期ぎりぎりで失敗しちゃったときは焦りましたね。患者さんが来院される予約日は決まっていて、私が提案した納期で院長先生も信頼してくれているので、納期は守らなくちゃいけないんです。かといって、納期に間に合わせるために技工物の品質を落とすわけにはいかないので、焦ります。患者さんも新しい歯ができるまで仮のもの(仮歯)などで過ごしてもらうので。

――そうか、患者さんは技工物ができ上がるまで気持ちよく食事できない人がほとんどですもんね。

Y:仮歯だと仮の材料なので、食事中に取れたり割れたりすることもあります。食べることはそのまま生活につながってます。歯がないと食べられません。歯があってこそ普通の生活ができる。それを助けたり支えたりできるのが自分たちの仕事なので、そこにやり甲斐を感じます。

――これから歯科技工士になりたいという高校生に、ひとことお願いします。

Y:日々精進、でしょうか。歯科技工士は患者さんが失った「食べる機能」を回復させることができて、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることのできる仕事です。技工物ひとつひとつがオーダーメイドなので、技術・知識・コミュニケーション力、それから一緒に働くスタッフとのチームワークも必要になる、やりがいのある仕事でもあります。もし技工士になりたいと考えているなら、患者さんにより良いものが届けられるように、その心がけを大切にできる技工士になってほしいなと思います。

――本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

ダイセー歯科クリニック

山添 由香(Yuka YAMAZOE)

明倫短期大学歯科技工士学科卒業後、2008年よりダイセー歯科クリニック勤務。主な業務は院内技工(前装冠、FMC、インレー、ブリッジ、CAD/CAM(保険適応のもの、自費のインレー、クラウン、インプラント上部構造など)の製作)、シェードテイキング、来院患者さんの義歯の修理・増歯、外注技工物の管理など。

インタビュー収録:2021年1月