ARTICLE NUM:006

歯科医師/五十嵐 健輔さん

研究で歯科医療がもっとよくなる
と考えるのはワクワクする。

DR+DH+DT WORK STYLE|2021.07.30

——五十嵐先生の大学でのお仕事は研究がメインとお聞きしましたが、どんなことを研究されているのでしょうか?

五十嵐先生(以下I):歯科で使う新しい材料や機器を考える「歯科理工学」という分野の研究をしています。例えば、口の中を撮影するカメラとか、詰めものの新しい材料とか、そういうものを考えています。

——材料が進化することで、患者さんはよりよい治療が受けられると?

I:そうですね。材料の強度が上がれば、毎日噛んでいる歯の耐久性もよくなりますし、劣化や色の変化が少なくなったりしますね。

——なるほど。機械というとテクノロジーに関する研究も多いのでしょうか?

I:今はデジタル化が進んでいるので、そうした機器に関しての研究も増えています。

——これからも研究をメインでやっていかれる予定ですか?

I:大学での自分の立場によって、この先の研究・教育・臨床の比率は変わってくるのかなと思います。大学に勤めていると、開業医の方ではできないような研究に挑戦できますし、それによって歯科医療の発展に貢献できるのがやり甲斐ですね。

——開業医の方はひとりで抱えざるをえない悩みも、大学に勤めていると同僚の方と共有できたりするのではないですか?

I:確かにそうですね。それは大学病院で働くのメリットのひとつです。様々な分野の専門の先生がいるので、困ったときは質問もできるし、助け合うことができますね。

「当初は開業医になりたいと思っていた。でも、大学院で研究する道を選択」

——何を研究するか、というのはご自身で決められるんですか?

I:テーマは基本的に自分で決められますし、あとは他の先生方と話してヒントをもらったりしていますね。研究テーマを見つけるのは大変ではあるんですけど「これを研究したら歯科医療がもっとよくなるんじゃないか」と考えるのはワクワクしますね。それがうまく研究結果として論文にまとめられたときの達成感、解放感というのもいいですし。

——大学で仕事をすることは学生のときから決めていたんでしょうか。

I:当初は開業医になりたいと思っていたんです。でも、歯科医療の発展に協力したい、後輩に歯科の面白さを伝えたいと思い直しました。それと研修医時代、インプラントに出会ったんです。先輩の先生から「現時点では、歯がなくなったところに歯を作れるのはインプラントだけ」と聞いて興味がわいて、大学院で研究する道を選んだんです。

「診療の基本は海外も日本も一緒なんです。使っている道具とかも」

——スイスに留学をされていますよね。それも研究が目的で?

I:そうですね。向こうでもインプラント関係の研究をしていました。スイスにはインプラントの有名なメーカーが多いんですね。研究だけでなく臨床も行って、海外の歯科を全体的に勉強してきました。

——現地での暮らしはいかがでしたか? 言葉とか。

I:最初の3ヶ月は確かにキツかったですけど、だんだん楽しくなりましたね。町の中はドイツ語ですけど、大学の人たちは英語が上手なので、会話は英語で。そのときの仲間とは今も「元気にしているか?」という感じでメールでやりとりをしています。

——留学中はプライベートの時間も充実していましたか?

I:家族で行ったんですけど、スイスは自然がたくさんあるので、ハイキングしたり、スキーをしたり。景色を見るのが楽しかったですね。

——歯科医療における海外と日本の違いというのも実感されたのではないでしょうか。

I:向こうは基本的に保険診療じゃなくて自費診療で、かなりこだわった歯科治療をしているんです。臨床からヒントを得て行う、研究に対しての向き合い方とか、あるいは英語の論文の書き方とか、そういうのは今の仕事にも生きているかなと思います。でも、診療でやっている基本そのものは海外も日本も一緒なんです。使っている道具とかも。

——ところで五十嵐先生が歯医者さんになろうと決めたのはいつですか?

I:高3です(笑)

——え、けっこう遅いんですね。

I:小学校・中学校が野球、高校からバスケと、ずっとスポーツをやっていて、怪我が多かったんですね。それで最初はリハビリ関連の理学療法士になりたいと思っていたんですよ。

——大学時代はどうでしたか?

I:やはり勉強は苦労しました。それまで高校で習ったこととは別の、まったく新しいことを習うので。でもそこは、だいたいみんな苦労しますよね。あと大学はみんな目標が同じで志も一緒なので、人と人のつながりはできやすいですし、プライベートでも勉強でも仲良くなったなという印象がありますね。同期の仲間とは今も仕事の悩みを共有したりして、ますます絆が深くなっている気がします。

——勉強の苦労は、今、教える側の立場になってみて、どうですか?

I:自分は国家試験に一回落ちた経験があるんです。だからこそ、勉強が苦手な学生には、その経験を生かしてあきらめないでしっかり話をして、モチベーションを上げたいと思っています。また、勉強ができる学生には、座学だけではわからない歯科の面白さや奥深さをどんどん伝えていきたいです。

——授業ではどんなことを学生さんに教えているんですか?

I:今教えているのは、歯科で使う材料についてです。ワックスや石膏、レジンというむし歯を削った後に詰めるもの、カメラなどのデバイスについて講義をしています。

——学生とのコミュニケーションというのは難しさもあるのでしょうか。

I:昔は怒鳴られたりしましたけど、今はそういうことはできないので(笑)。基本的に優しく接するんですけど、何か質問されたとき、すぐに答えを出すのではなくて、少し考えさせて正解に導くような、うまく誘導ができるようにと心がけています。

「やっぱり一生続けていく職業なので、 後輩には歯科の面白さを常に探究してほしい」

——後輩に、こういう歯医者さんになって欲しいという想いはありますか?

I:やっぱり一生続けていく職業なので、歯科の面白さを常に探究しながらやっていってほしいですね。あとは、人と接する仕事なので、人を思いやれること。患者さんの立場になって「自分はどういう歯医者さんに診てもらいたいか」というのを客観的に考えられる歯科医師になってほしいなと思います。

——五十嵐先生が感じる歯医者の面白さとは何ですか?

I:全部が全部一緒じゃないことですかね。同じむし歯でも患者さんによってそれぞれみんな違うので、教科書通りじゃないことを自分で考えながら、自分の知識を応用しながらやっていかなきゃいけないんです。研究の場合であれば、すごい研究をして英語論文を発表できれば世界的にもアピールができるので、それはとてもやり甲斐があると思います。

——これから歯科を目指す人へ、伝えたいことはありますか?

I:大学に入ってから歯科というものを学ぶんですけど、あらかじめ、歯医者なることに対するモチベーションをしっかり持っていないと、国家試験を目指して6年間勉強していくっていうのは大変だと思います。でも専門職なのでかなりやり甲斐はありますよ。歯医者になってからも新しい材料や機器がどんどん出てくるし、自分のスキルが上がっていくと難しい手技にも挑戦したくなるので、飽きないと思うんですね。興味がある人にはぜひ歯学部の門を叩いてもらって、一緒に歯科の世界を盛り上げていけたらなと思います。

——本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟生命歯学部

五十嵐 健輔(Kensuke Igarashi)

日本歯科大学新潟生命歯学部卒業後、同大学新潟病院で臨床研修歯科医を修了。同大学新潟生命歯学研究科(大学院)へ入学。博士(歯学)取得後、生命歯科学講座助教として同大学新潟生命歯学部に勤務。その後、スイスのベルン大学補綴科へ留学。現在は歯科理工学講座の講師。

インタビュー収録:2021年1月