ARTICLE NUM:008

歯科医師/渡會 侑子さん

未来にどんどんつながっていくのが
“研究”なんだろうと思います。

DR+DH+DT WORK STYLE|2021.09.30

——渡會先生は大学に勤めていらっしゃいますが、具体的にどのようなお仕事になるのでしょうか?

渡會先生(以下W):大学に勤めるというと、普通の歯医者さんというよりも学校の先生に近いイメージを持たれるかもしれません。もちろん学生に専門的な内容を教えるのも大学教員の大切な仕事ですが、それだけでなく、一般的な、いわゆる歯医者さんとしての患者さんの治療も行っています。

——大学には、教育、臨床、研究の3つの柱があると聞いています。

W:そうなんです。研究というのはイメージしづらいと思いますが、今まで明らかになっていないことを探求して、明らかにするという仕事です。誰も知らないことをとことん追求できるのは、とてもやり甲斐を感じられます。教育、臨床、研究の3つは、自分の専門分野を通して深く関わり合っているんです。全部つながっていて、どれかひとつが欠けても成り立たないと実感しています。

——ご専門は何になるのでしょうか?

W:臨床系の大学院に進学して、今は歯科補綴学第1講座というところに所属しています。補綴(ほてつ)というのは入れ歯やブリッジなどの被せものです。

——それを専攻されたのは理由が?

W:私は実家が歯医者ではなくて、周囲にも歯科関係者がいなかったんですけど、総入れ歯の叔父がいたり、高齢の親戚の多くが入れ歯を使っていたんですね。その環境で育ったということが前提にあって、研修医時代に「これから自分はどうしようかな」と進路で迷っていたとき、昔の環境を思い出したというか、影響を受けたということはあると思います。

——患者さんの治療はある程度の段階で一旦終了すると思うのですが、研究というのはゴールがあるものなのでしょうか?

W:個人的にはないと思っています。「これとこれとの関係はわかったけれど、これとあれの関係はまだわからないから次はそれを明らかにしよう」とか、「機械や材料はどんどん進化していくから、そこに対応できるようにまた新たなものを」というふうに、未来にどんどんつながっていくのが研究なんだろうと思います。それに、研究が進んでいくと、それは歯科のひとつの分野の範囲に限らないんですね。だから、分野にこだわらず、視野が狭くならないように、そういう意識が必要なのかなとも思います。先輩の先生方に教わって、そのことに気づけるようになりました。

「学生ひとりひとりの性格や学び方に合わせて、丁寧に教えるようにしています。」

——診療についてもお聞きしたいのですが、大学病院と一般の歯科医院では、診察をするときに大きな違いはあるのでしょうか。

W:診療内容に大きな違いはないと思いますが、個人的に違うと思うのは、時間の配分ですね。大学病院は教育機関でもありますので、診察や治療の途中で学生に説明したりするんです。また、患者さんのお口の中の状態を実際に学生と一緒に確認させていただくことや、歯磨きの説明などを学生に担当してもらうこともあります。もちろん患者さんに了解をいただいて、ご協力いただける場合になりますが。なので、そのときは学生に説明する時間が通常の診療時間にプラスされるので、一般の歯科医院と比べると患者さんひとりあたりの時間が長いかもしれないですね。新潟病院に来院される患者さんは、学生教育に協力的な方が多く、いつもありがたく思っています。

——なるほど。一般の歯科医院に行かれる患者さんは、時間がなかったり、素早く済ませてほしいという方が多いですもんね。教育という点では、学生さんとの関係はいかがですか?

W:当たり前なんですけど、学生はひとりひとり違うんですよね。説明の仕方ひとつとっても、わかってくれる学生もいれば、そうじゃない学生もいます。だから同じことでも少し言い回しを変えてみたり、ひとつ手前から説明して確認しながらだったり。実習のときは全体の説明の後で、学生ひとりひとりの性格や学び方に合わせて丁寧に教えるようにしています。

——教えた学生さんのその後って気になりますか?

W:4年生の実習で教えていた学生が、5年生で実際に患者さんと接するとき、一緒に診察をして「あ、成長している!」って思ったりしますね。逆に「教えたはずなのに伝わってなかったな……」というときもありますけど(笑)

「私の場合は、「知りたかった」というニュアンスが強かったです。 歯はなんでこうなっているんだろう、という好奇心ですね。」

——そもそもの話で恐縮ですが、歯科の仕事と直接関係のない環境で育った渡會先生が、歯医者さんになろうと決めた理由は何だったのでしょうか?

W:私の場合は「知りたかった」というニュアンスが強かったです。歯はなんでこうなっているんだろうという好奇心ですね。

——ちなみに、ご出身はどちらですか?

W:私は山形県の庄内地方の出身なんですけど、山形には歯科の大学がないんですよ。だから日本歯科大学新潟生命歯学部に入学して。新潟ならば実家にも近いし、東京に出るのにも便利だし、何でもあるし、という感じでした。

——学生時代の6年間を振り返っていかがですか?

W:勉強の意味ではやっぱり大変でしたけど、周りにいるみんなが同じ方向に向かっているから、そういう意味では孤独を感じないというか、自分ひとりでそこに向かっているわけではないので。一般的な大学って、進学したら自分で自分のカリキュラムを組むと思うんですけど、歯科の大学は基本的にみんなで同じ時間割で動くんですね。大変は大変なんですけど、みんなが一緒にいるから頑張れる、という感じでした。

——そのときの感覚とか記憶は、今、学生さんと接するときに役立っていますか?

W:完全に思い出して教えていますね(笑)。私自身は手先が器用な方ではないんです。入学したときは、歯科の道具も見たことがなかったし、手も上手に動かせないし。実家が歯科医院の友達は、道具や材料を見たことがあるので馴染みがある感じでした。でも私にとってはすべてが初めてのことだったんです。そのイメージが記憶として定着しているので、まだ学び始めたばかりで不安な学生には「みんなそうなんだよ、大丈夫だよ」って心の中で思いながら接しています。

——先輩として、母校の学生さんにアドバイスしたいことはありますか?

W:私、学生時代に将来の目標を考えるのがすごく遅かったんです。だから、「こうありたい」とか「こういう歯医者になりたい」とか、歯科のことだけじゃなく「こういう人になりたい」とかでもいいですし、自分が突き詰めていきたいものを、学生のうちに見つけてほしいなと思います。国家試験の勉強も、試験の先に目標を持って、そこに近づくためにと思えば必然的にやる気も出るし、頑張れると思うんですよ。自分ができなかったので、後輩に対しては特に思いますね。

——本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟生命歯学部

渡會 侑子(Yuko Watarai)

日本歯科大学新潟生命歯学部歯科補綴学第1講座助教。2013年日本歯科大学新潟生命歯学部卒業、18年同大学大学院新潟生命歯学研究科修了後、同大学新潟病院総合診療科勤務を経て、20年より現職。日本補綴歯科学会、日本スポーツ歯科医学会所属。日本顎関節学会認定医。

インタビュー収録:2021年1月