ARTICLE NUM:010

歯科技工士/三富 加奈子さん

医療で役立つものづくりのスキル。
楽しみながらずっと学べる仕事。

DR+DH+DT WORK STYLE|2022.01.10

——今回は歯科技工士の三富さんのお仕事について教えていただきます。まず、普段はどんなものを作っているのでしょうか。

三富さん(以下M):私の仕事はインプラント技工がメインになっています。上部構造、クラウンという被せものの部分の作成がメインになりますね。主に手作業で、金属とかセラミック(陶材)とかいろいろな材料を使います。最近ではCAD/CAM(コンピューターによる設計/製造)を使ったジルコニア(金属の一種で、耐久性が極めて高い材料)のクラウンも多くなってきていますね。

——ひとつ作るのにどのくらいの時間がかかるのですか?

M:オーダーによって作業時間は変わってきますが、基本的にひとつの症例に対して約2週間ほどいただいています。仮歯のものだと作る時間は比較的短いですけど、最終補綴物(ほてつぶつ)になると多少時間がかかります。例えば陶材で歯を作るときは高温の窯で焼いて製作するんですが、実質的な作業時間の他に焼く時間、冷ます時間もあるので……。本当に、その依頼によってまちまちですね。

——オーダーは歯科医師の先生から?

M:そうです。「この患者さんに、この材料を使って、こういうものを作ってください」という依頼が先生から来て、私たち技工サイドで作ります。「これはちょっと……」という場合は、先生に相談をして判断を仰いで、患者さんにとっていちばん良いものができるようにしています。

——患者さんと直接お話されることもあるのですか?

M:ありますね。ここはやっぱり病院併設なので、何かあればすぐに連絡が来て、直接患者さんにお会いします。作る前の相談の段階のときもありますし、私たちの方で出来上がったものを確認したいときは、患者さんに事前にOKをいただいてから、立ち会いをさせていただきます。

——患者さんは年配の方が多いのでしょうか?

M:いろんな年齢の方がいらっしゃいます。歯は加齢で失うだけじゃなくて、若い方も思わぬことで歯を失うこともありますので。

——歯科技工で使う材質はたくさん種類があると聞きました。どうやって選ぶのでしょう。

M:噛む力が強い方がいれば弱い方もいらっしゃいます。噛み方や癖、生活のスタイルによって材質は変わってきますね。見た目や割れやすさも考慮して、歯科医師の先生と相談しながら作っています。

——実際に作るところを見せていただいてもいいですか?

M:いいですよ。例えばクラウンは、この「ワックス」(※下写真参考)というロウソクのロウのようなものを火で溶かしながら作っていきます。

——おお。これ……手先が器用じゃないとできないですよね。

M:確かにものづくりが好きな人の方が向いていると思いますね。

——三富さんも、昔からものづくりがお好きだったんですか?

M:そうですね、でもただ作ることが好きなだけで、それをどう将来にいかしたらいいのか、高校生のときはよく分からなかったんです。なかなか進路が決まらなくて、高校3年生のときに「クラスで進路希望を出していないのはあなただけよ」って担任の先生から家に電話が来るくらいだったんです(笑)。ものづくりのできる進路って、例えば調理とか美術とか、いろいろありますけど、いろんな学校を調べているうちに「あ、医療にもあるんだ」って分かって。そのときに、「ものを作るスキルが健康にいかせる」「人体を作る仕事がある」と知って、この道を選びました。

——ちなみにどんな学びをするんですか?

M:私が卒業した学校(短期大学)では座学と技術を2年間で平行して学びました。実験とかもあるんです。「これは何だろう?何のために実験するんだろう」って思いながらやっていた実験が、実際に患者さんの口に入るものが出来上がってみると、「あ、あの実験はこのためのものだったんだな」って納得できたりするんですよ。

——本棚にはたくさん専門の本や雑誌がありますが、就職してからも学び続ける感じですか?

M:歯科技工の技術は日進月歩なので、今も先輩に教えてもらったり、メーカーさんに教えてもらったり、勉強会に参加したり、常に学び続けています。この病院は大学の図書館があるので、恵まれた環境ですね。

——技術的な意味でのゴールのようなものはあるのでしょうか?

M:技術的なゴールというのはないと思いますね。どこまで追いかけていっても答えみたいなものにはなかなかたどり着かないです。でも、患者さんそれぞれに合うものが作れて、患者さんが健康になれるなら、それが正解なんだと思います。

「クラウンと義歯の両方を学んだことで、広い視野を持てるようになった」

——三富さんはずっとインプラントのお勉強を?

M:いえ、短期大学を卒業してから、こちらの研修科で1年間クラウン(被せもの)を学んで、それから義歯(入れ歯)の歯科技工士の募集で就職しました。今はインプラントをやっています。クラウンと義歯の両方を学んだことで、広い視野を持てるようになりましたね。インプラントはクラウンと義歯の内容が複合しているので、結果的によかったなと思います。

——なるほど。ところで、こちらの技工室で一日中ずっと作っているんですか?

M:材料の取り寄せとか伝票処理とか、そういった事務仕事もありますし、型を採ったものに石膏を流す仕事もあるので、一日中ずっとデスクワークだけをこつこつやっているわけではないです。

——こちらの職場では、残業とかは?

M:朝は9時からで、終わるのは定時の6時です。残業はできるだけしないように作業の流れや順序を工夫しています。硬化や冷却など経過時間がかかるものは退勤前に作業して、翌日すぐ次のに移れるようにしたり。どの作業にどのくらいかかるか、自分ペースがわかってくると、時間配分がしやすくなりました。

——それはいいですね。週休二日で残業もなく。

M:この職場は主に個人での作業なので、自分のペースで作業の順次を組み立てられるんです。だから自分の仕事がきちんとできていれば、他の人を巻き込んで迷惑をかけることはないですね。もちろん、自分の手が遅ければ完成までが遅くなるということはありますけど、基本的に時間の配分は自分で決められます。「こっちを先に作ろう」とか「これは得意な作業だから後にしよう、苦手なものを先に作っておこう」とか。

——苦手なものを先にやるタイプなんですね(笑)

M:やっぱり失敗することもあるので(笑)。トライ&エラーを繰り返す時間的な余裕があった方が安心ですから。逆に、追い込まれて力を発揮するようなタイプの方もいらっしゃいますけど(笑)

 

「ずっと楽しく学んでいけると思ったから、この職場を選んだ」

——歯科技工士としてのモチベーション、やり甲斐を教えてください。

M:やっぱり患者さんに喜んでいただいたときとか、メンテナンスでいらっしゃった患者さんの口の中で、自分の作ったものがいい方向に働いているのを確認できたときは、とてもモチベーションが上がりますね。「これは大変だな……」と思いながらすごい苦労して仕事をしても、「患者さんのお口にちゃんと入ったよ」って教えていただいたり、患者さんから直接嬉しい言葉をいただいたときは、「よし、また頑張ろう」って思いますね。

——三富さんのお話を聞いていると、とても楽しそうにお仕事に取り組んでいますよね。

M:私は「楽しそうだからやりたい!」って思ってこの世界に入ったのが大きいと思います。今も、けして楽ではないですけど、楽しく仕事ができています。この職場を選んだのも、ここならずっと楽しく学んでいけると思ったからです。

——本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟病院

三富 加奈子(Kanako MITOMI)

明倫短期大学卒業後、日本歯科大学新潟病院技工研修科を修了。同大学新潟病院生命歯学部技工科に勤務。主な業務はインプラント上部構造、クラウンの製作

インタビュー収録:2021年12月