ARTICLE NUM:011

歯科医師/小林 徹也さん

町に愛されるホームドクターは、
患者さんへの気くばりを大切に。

DR+DH+DT WORK STYLE|2022.03.14

——「小林歯科医院」は1918年(大正7年)の開業とのことですが、歴史ある医院を引き継ぐにあたって、どんなことを意識されましたか?

小林先生(以下K):100年以上続いていると、当然、時代の変化に応じて患者さんのニーズは変わってきます。ただ、僕の代になってまったく違う医院になってしまってはいけないので、継承していく部分と変化する部分のバランスを強く意識しました。

——今の時代のニーズ、変化する部分としては、例えばどんなことが挙げられますか?

K:例えば、最近は夫婦ともに夜7時頃まで仕事をされるような共働き世代の患者さんが増えています。今までの歯科医院って、6時半くらいにその日の診療を終えることが多かったんですけど、それだと共働きの方々は土日しか通院できないですよね。なので、診療時間を夜8時までに延長しました。それから、超高齢社会で身体的な理由で通院が難しい患者さんも多くなっているので、往診にも力をいれるようにしました。

——どのくらいの頻度で往診をされているのでしょう?

K:普段は午前の診療が終わってから往診に出かけて、夕方の4時頃にまた外来に戻る、そういう変則的な体制をとっています。あと週に一日は「往診の日」と決めて、積極的にいろいろな方々のところへ往診に行っています。

——歯科の往診ってけっこう大変だったりしますか? 特殊な機材とか……。

K:いえ、僕の場合は難しい専門的な治療を行おうというのではなくて、普段、歯の痛みで困っているような方たちに手をさしのべられるように、と思ってやっています。例えば、入れ歯が痛くてものが食べられない患者さんの治療って、わずかな調整で終わるような場合もあるんですよ。それなのに「わざわざ家族に頼んで歯医者に連れて行ってもらうのが大変だから」とか、いろんな理由でそれをずっと我慢していらっしゃる方も多いんです。でも僕らが行けばすぐに痛みを取り除くことができるんですよ。

「どんなに忙しくても、患者さんひとりひとりの時間はきちんと確保する」

——ところで、とても清潔で明るい雰囲気の医院ですよね。

K:車椅子やベビーカーでも通いやすいように、基本的に院内は土足で、スロープもないオールバリアフリーで設計しています。あと、すべての世代の患者さんの共存がコンセプトにあるので、キッズスペースは子どもを隔離して閉じこめておくのではなく、待合室の空間にとけこむようにオープンに作りました。

——それはどんな意図があるのでしょうか。

K:例えば、待合室におじいちゃんおばあちゃんがいる、その同じ空間で僕が子どもにフッ素を塗ってあげたりしているんですけど、そうすれば子どもにとっても安心ですし、そういう場面を緊張している新規の患者さんにも見ていただいて、その方たちにも安心していただく、という効果もあります。

——なるほど。じゃあ、幅広い年代層、ファミリーで来られているような患者さんも多いのですね。

K:そうですね。お子さんがまずむし歯の治療に来られて、それを見て「本当は歯医者が苦手で行けなかったんだけど、ここなら……」ということで今度はお母さんが予約をされて、そしたら次にお祖母ちゃんも来られて、みたいなケースも多いです。

——口コミでまたどんどん広がっていきそうですね。

K:「お友達から聞いて」と言って来られる患者さんも多いです。でも、患者さんが増えるのはありがたいですけど、そのせいで診察時間が短くなって「友達に聞いていた先生のイメージと違った……」となってしまうのはよくないと思うんですね。なのでどんなに忙しくても、患者さんひとりひとりに対する時間はしっかり確保する、というのは意識しています。

「患者さんが何を求めて何を感じているのかを知ることで、通いやすいホームドクターに」

——小林先生は「一生を通してのホームドクター」をコンセプトに掲げていらっしゃいます。「ホームドクター」とは、どんなイメージですか?。

K:地域に住んでいる方たちが、気軽に歯のことで相談できるようなドクター、というイメージです。

——チーム医療にも力を入れていると聞きました。

K:近年は歯科医療のカテゴリーが多岐にわたっているので、それぞれの専門医の先生と連携してチーム医療を行うことを目指しています。以前は大学病院で勤務していたので、そのつながりでいろんな専門の先生方に連携をお願いする環境づくりができています。

——具体的にどんな先生方と連携するのでしょうか。

K:例えば口腔外科、インプラント、矯正などですね。そういった専門分野の先生にこの医院に来ていただいて、実際に患者さんを専門的な目で診てもらう、ひとりだけの診断で終わらせない、ということを大切にしています。もし大学病院の専門的な機材で検査した方がいい場合は、患者さんに大学病院に行っていただくというかたちです。

——それは患者さんにとっても、とても心強いですね。

——患者さんとの接し方で、小林先生が特に気をつけていることは何ですか?

K:僕は「なぜ人は歯医者さんが苦手なのか」ということをずっと考えていて。ひとつの答えとして感じているのは、「何をされるかわからない」という恐怖だと思うんです。

——確かに、患者側としてはその気持ちわかります(笑)

K:「次回は麻酔をして、この部分を削るよ」とか、そういうことをあらかじめ知って歯科医院に来るのと、何されるかわからないまま、「今日歯を抜くって言われたらどうしよう」と不安に思いながら来るのと、その違いは大きいと思うんです。だからまず、僕は初診のときは、検査とお話がメインで、そこでこれからの治療方針や「次回こうします」という説明をして、実際の治療は2回目の来院のときからにするようにしています。

——患者さんの心の準備ができるように、ということですね。

K:そうです。ただ、激しい痛みがあって来られる方はまた別ですね。まず痛みを取ってほしいわけですから。そこは柔軟に、やり方をマニュアル化したりはせずに、患者さんが何を求めてどうしたいかを表情や会話の雰囲気で理解できるように心がけています。

「院長とスタッフの関係性や雰囲気は、患者さんにも伝わる」

——スタッフの皆さんとの関係作りという点で、普段気をつけていることはありますか?

K:男性の院長と女性のスタッフの関係って、どんなに仲良くしようと思っても絶対に距離はあるんです。だから、うちの場合は、歯科と関係のない仕事をしてきた妻に第三者的な立場で協力してもらって、妻がスタッフと年に一回面談をして「今年はどうだった?」「どうしたい?」といった話をしています。プライベートのこととか、職場のこととか、そこで彼女たちの感じていることをいろいろと聞いて、それに応じて細かく修正をしていくことで、働きやすい職場づくりをしていこうと思っています。

——スタッフさんにとても気をつかっていらっしゃるんですね。

K:「いつもありがとう」の気持ちを伝えるにしろ、あまり過剰になったり、善意の押しつけみたいになってもまずいですし、スタッフとの距離感はすごく気をつけていますね。やっぱり彼女たちにはやり甲斐を持って楽しく働いてほしいですし、そういう医院の雰囲気とか、院長とスタッフの関係性って、会話の節々から患者さんにも伝わると思うんです。

「いかにも『歯医者さんっぽい歯医者さん』には見られたくない。」

——歯科医師という職業に就くことは、小林先生の場合、子どものときから決めていたのでしょうか。

K:歯医者の家系ですし、親戚も歯医者をやっているんです。なので、この仕事が自然かなというのは最終的にありましたけど、もともとは「医者になれ」って言われて育ってきたんです。ただ、レールを敷かれてしまうと違う道を探したくなるんですよね。それで建築士を目指していたときもありました(笑)

——えっ、意外ですね。学生時代の勉強はどうでしたか?

K:勉強は大変でした(笑)。僕の入学した年からカリキュラムが変わって、留年したこともあって……ただ、全国から学生が集まる大学だったので、一緒に学んだ仲間が今、新潟を離れてそれぞれの地元に帰って、日本の各地に友達がいるというのは面白いですね。何県には誰がいる、みたいに、本当に各地にいるんですよ。

——「町のホームドクター」だと、休日に近所に買い物に出かけて患者さんと会うこともありますか?

K:ありますよ。最初は戸惑ってしまって、少しプレッシャーに感じていたんですけど、ここ最近になってようやく、それもやり甲斐のように感じられるようになりました。みんなが手を振ってくれたり、話しかけてくれたりするのは、やっぱりこの仕事をしているからなんですよね。

——声をかけたくなる先生のキャラクターもあるんじゃないですか?

K:いかにも歯医者さんっぽい歯医者さん、というふうには見られたくないんですよね。だから、できるだけ清潔感があって、親しみやすくて、それでいて歯科医師として信頼される、そういうところを気をつけています。

——とにかくいろんな方面に気をつかう性格なんですね(笑)

K:そうですね(笑)

——歯科医師としてお仕事をされて、いちばんやり甲斐を感じるのはどんなときですか?

K:この仕事のやり甲斐はまちがいなく、「感謝されること」ですね。往診のときは特にわかりやすいんですけど、例えば口の中に傷ができちゃって、入れ歯が使えなくなる患者さんもいるんです。痛いのを家でずっと我慢されているわけです。でも僕らにとっては、行って入れ歯を調整してあげればもうそれで終わりなんですよ。「我慢なんてしなくていいから、電話一本ください」って言って治療してあげると、本当に喜んでくれるんです。ご家族も喜んでくれます。歯医者って皆さんが思われているより、ずっと身近な存在なんです。僕自身、そういう「ホームドクター」になれればと思ってやっています。

——本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

小林歯科医院

小林 徹也(Tetsuya Kobayashi)

日本歯科大学新潟生命歯学部卒業後、日本歯科大学新潟病院にて補綴専門研修を行ない、旧小林歯科医院にて3年間勤務。2015年10月、現住所に小林歯科医院を開院。日本摂食嚥下リハビリテーション学会員、新潟リハビリテーション研究会会員、日本補綴歯科学会会員。

インタビュー収録:2022年2月