ARTICLE NUM:012

歯科医師/高塩 智子さん

口臭が気になる患者さんに寄り添う
「いき息さわやか外来」とは。

DR+DH+DT WORK STYLE|2022.06.21

——高塩先生は「いき息さわやか外来」の医長を務めていらっしゃいます。まずはこちらの外来について教えてください。口臭が気になる患者さんを対象にしているということでしょうか。

高塩先生(以下T):そうですね、どういったかたちであれ「口臭が気になっている」という方に対して、口の中のにおいを機械で計測して、それぞれの患者さんに適切な治療をするところです。

——具体的にはどんなものを計測するのですか?

T:基本的に、口臭には大きな3つの要素があります。硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドです。「硫化水素」というのは、卵の腐ったようなにおいです。「メチルメルカプタン」は野菜の腐ったようなにおい、「ジメチルサルファイド」は磯臭いにおいになります。いちばん出やすいのは硫化水素ですね。原因は主にお口の中の細菌によるものです。

——自分の口臭の種類がわかるわけですね。改善するのはどうやって?

T:ベロ(舌)の上についている舌苔(ぜったい)という白い部分を磨いて汚れを取ってあげるというのが、いちばん最初の治療方法になります。あとは虫歯の人、歯周病の人、入れ歯の汚れや入れ歯が合わないことが原因で口臭が出る人もいるので、それぞれにあった治療をします。

「口臭の原因は唾液が少なくなっている場合も。水分をしっかりとって、口の中が乾かないように」

——個人差はあると思いますが、だいたいどのくらいで治るものなんですか?

T:通常、人間の身体の変化が3ヶ月くらいなので、歯周病や虫歯の治療をせず、ただ単純にベロの舌苔が原因の口臭の場合は、生活習慣も関連する部分を見直してもらい、ひとまず3ヶ月くらい様子をみさせてもらいます。絶対にそれで治るというわけではないですが。

——やっぱり生活習慣も関わってくるんですね。口に入れる食べ物とかも気をつけた方がいいのでしょうか。

T:食べ物は「これが口臭の原因になる」というのはないのですが、食生活が乱れて栄養のバランスが崩れている方もいます。良質なタンパク質を摂って、バランスの良い食事をするように指導することもあります。

——口臭を抑えるために心がけた方がいいことはありますか?

T:まずはお口の中を清潔にすることですね。口臭が気になる方って、唾液が少なくなっている人が多いんです。唾液があれば、口の中の汚れが流れていってあまりにおいがしなくて済むんですけど、口の中が乾いているとけっこう嫌なにおいにつがなることがあります。だから水分をたくさん摂るようにとか、そういう話をしていますね。

——そうか、流しちゃえばいいんですね。ところで、口臭が気になって受診して、そこから別の外来での治療が必要になることもあるわけですよね。

T:もちろんあります。歯周病や虫歯があれば最初にその治療をしてもらいますし、口の乾きがあれば、専門の外来と連携していきます。

——ちなみに口臭が気になる人が普段自分でできる改善法ってありますか?

T:簡単にいうと、市販されているものでいいので、ベロを専用の道具でみがいてください。あとは緊張して唾液が出ない人も多いので、よく運動してリフレッシュして、口の周りの筋肉を動かすようにしてください。

「開業医の先生方にも、ぜひ口臭の分野に興味を持ってもらえたら」

——ところで「いき息さわやか外来」ってネーミング、なんだか目を引きますね。

T:お口のにおいをさわやかにしてQOL(Quality of Life=生活の質)を上げたいね、ということだと思いますよ。

——そういう外来は他の医療機関にもけっこうあるのですか?あまり目にすることがないのですが……。

T:検索するとけっこう出てきますよ。歯科の大学病院ではよくある外来のうちのひとつですね。ただ一般の開業医の歯医者さんですと、口臭をメインでやっていらっしゃる先生はあまり多くはないですよね。ただ、そういう先生方にも、ぜひ口臭の方に興味を持っていただけるといいなと思っています。

——口臭を計測する機械を見せてもらってもいいでしょうか。

T:こちらが口臭測定器です。先ほど言った3つの成分を細かく数値化してくれます。患者さんにチューブの端を口にくわえて息をはいていただいて、もう片方の端にシリンジ(注射筒)をつけてこれで息を吸って機械に取り込みます。この機械は、全国でも少ない、珍しいものだと思います。

——へ~、こういう専門の機械に触れられるのは大学病院ならではですね。

——高塩先生が歯科医師になろうと決めたのは?

T:父親が歯科医師だったので、小さい頃からなんとなく歯科医師になろうと思っていました。どういう職業かイメージがつきやすかったのもあります。大学の選択も父の出身校を選びました。

——国家試験はけっこう大変でしたか?

T:当時はまだインターネットがなくて、娯楽といえばテレビや漫画だったんですけど、私は6年生のときはテレビの電源を抜いて、漫画も読まないと決めて勉強していましたね(笑)

——国家資格を取得してからのキャリアは?

T:最初は歯周科というところに入って、そこで大学院で研究をやりました。その後、総合診療科に配属となって、歯周科の流れで口臭外来が立ち上がっていたので、私は口臭治療をやるようになりました。

「人になかなか言えない悩みだからこそ、感謝してもらえる」

——普段のお仕事に、どんなやりがいを感じていますか?

T:口臭ってどうしても人に言いづらくて、長く悩んでいらっしゃる患者さんがやっぱり多いんですね。周囲が気づいたとしても指摘してももらえないことも多いですし、悩んでいても家族ぐらいにしか言えない、場合によっては家族にも言えないと思うんです。でも、そういう方々にここで検査をして原因の説明ができたり、あるいは検査した結果「口臭はありませんよ」と言ってあげられたり、そういうことで感謝してもらえると嬉しいですよね。あとここは大学病院なので、学生さんたちが成長していく姿を見るのも楽しいです。

——治療の面で大学病院のよさを感じることもありますか?

T:やっぱりひとりひとりに対して向き合う時間が長くとれるというのは、学生のときから感じていますね。患者さんと深く付き合えるところがあるのが大学病院のよさだと感じています。

——なるほど。お休みの日はどんなふうにリフレッシュを?

T:以前はよく旅行をしていたんですけど、今は犬を飼っているので、一緒にお散歩をしていますね。家の近所を一緒に散歩することでリフレッシュできています。

——最後に、これから歯科を学ぶ高校生や、今まさに学んでいる大学生にひとことお願いします。

T:口臭治療に限らず、歯科医師はやりがいがある仕事だと思います。自分が治療をして目の前で誰かの口の中がきれいになるとか、きれいになることでその人たちがみんな輝いていくとか、そういうのを実感したり、そういう方たちと話したり接したりすることに日々やりがいを感じながらやっています。

——本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟生命歯学部

高塩智子(Tomoko Takashio)

日本歯科大学新潟歯学部卒業後、同大学大学院歯学研究科を修了し、博士(歯学)取得。現在講師として同大学新潟病院総合診療科勤務。2014年よりいき息さわやか外来医長併任。日本歯周病学会専門医。日本口臭学会専門医。

インタビュー収録:2022年5月