ARTICLE NUM:013

歯科衛生士/岡田 優香さん

患者さんの人生の最後まで。
今、歯科衛生士の新しい時代へ。

DR+DH+DT WORK STYLE|2022.08.17

——岡田さんは現在、訪問歯科口腔ケア科で歯科衛生士として活躍されています。このお仕事は今年で何年目になりますか?

岡田さん(以下O):2017年からなので勤続5年目ですね。短大の専攻科に3つのコースあって、そのひとつの「在宅歯科医療学専攻」を修了し、本学での就職が決まりこの訪問歯科口腔ケア科に配属されました。

——訪問歯科ということは、治療が必要な患者さんの自宅や施設に行って、歯科医師の先生のそばでサポートをするようなイメージでしょうか。

O:それもありますが、歯科衛生士として患者さんの口腔ケアをしたり、歯周治療の一環でスケーリングもします。口腔機能に関連する筋のマッサージをすることもありますし、衛生士としてやることはいっぱいありますね。

「患者さんと同じ目線で、目を見てちゃんと話すことが大切」

——訪問歯科の患者さんは、円滑にコミュニケーションできる方ばかりではないと思います。そのあたりの難しさはどうですか?

O:もちろん高齢者の方や障害者の方もいますし、なかには小さなお子さん、0歳とか1歳の子もいます。やっぱり訪問診療の対象になる方って、どうしても全身的な疾患を持っていらっしゃる方が多いんです。患者さんのなかには、「なんで歯医者がここに来ているんだ!?」って思ってしまう方もいます。なので、「私たちは歯医者です」「これからこういうことをしますよ」とちゃんと説明するようにしています。そのとき、患者さんの目を見て話す、車椅子の方やベッドに横になっている患者さんは同じ目線の高さになってお話をする、そういうことが大事なのかなと思っています。

——訪問の場合、やはり病院や歯科クリニックの中で働くのとは違って、歯科以外の関係者と接するのでしょうか。

O:はい、患者さんひとりひとりにいろんな職種の方が関わっています。ケアマネージャーさん、看護師さん、介護士さん、お医者さん、最近だと言語聴覚士さん、理学療法士さんとか、本当にいろんな方たちがいます。そのうちのひとりとして歯科衛生士も加わるということになりますので、歯科以外の関係者と接することが多くなります。

——訪問歯科ならではの苦労とか、感じることはありますか?

O:そうですね、訪問診療の現場に行くと、どうしても看護師さん、介護士さんをはじめ、他の職種の方がメインになってきて、その中で歯科衛生士はカンファレンスなどにしても呼んでもらえる優先順位が低いというのは感じています。

——全身的な疾患の治療が最優先で、それに対して歯の治療ももちろん大事だけれど、メインではない、みたいな感じですよね。もちろん、患者さんそれぞれで抱えている疾患や症状は違うと思いますが、そうなると歯科治療の依頼があって現場に行ったときに、初めて会う患者さんの症状に戸惑うこともあるのではないですか?

O:確かに依頼を受けて現場に行ってびっくりすることもあります。ある程度は、事前情報で「こういう病気の方なんだな」というのはわかるんですけど、実際に患者さんと接するのは訪問先の現場で、患者さんの雰囲気とかも行ってみないとわからないことが多いです。

——じゃあ、対応力みたいなものが大事になってきますね。5年働いてきて、どうですか? だいぶそういったものも身についたのではないでしょうか。

O:いえ、まだまだですね。先輩歯科衛生士さんと一緒に現場に行くことがあるんですけど、先輩は経験値も高いですし、口の中だけじゃなく患者さんの生活環境を把握する視野も鍛えられていますし、すごいなと思っています。

——診療以外のお仕事はどういったことがありますか?

O:学生さんを現場に連れて行くこともあるのでその指導とか、あとはカンファレンスに参加したり、サービス担当者会議という会議に出たり、ケアマネージャーさんと連絡を取ったり、そういった事務的な作業もけっこう多いですね。

 

——岡田さんが歯科衛生士になろうと思ったときのことも教えてください。

O:私、子どものときは全然歯医者にかかったことがなかったんですよ(笑)。高校生で自分の進路を考えたとき、父親から「歯科衛生士いいと思うよ」って言われて、それから「どんな仕事なんだろう?」「とりあえずオープンキャンパス行ってみよう」って感じでした。

——じゃあ入学前は歯科衛生士といっても、あまりイメージがわかなかったのではないですか?

O:うーん、「学校の歯科検診に来てくれる人」「歯医者さんで働いている人」そのくらいのイメージしかなかったですね……。

——進学先を選んだ決め手は何でしたか?

O:オープンキャンパスの雰囲気もそうですし、あと、そのときの短大の先生が印象に残っていて、この人に習ってみたいな、と思ったところですかね。

——国家試験の勉強はどうでしたか?

O:受験の年は夏の終わりに病院実習が終わって、それから2週間くらいの秋休みがあったんですけど、そこから本格的に受験勉強をはじめた感じでした。ただ、正直なところ、もっとたくさん勉強しておけばよかったなと今になって思います。

——というと?

O:科目によっては、とりあえず覚えるだけの勉強で、本当に何が大切なのかというのを理解せずに勉強していたところもあったんです。今、臨床に出て働いて、「もっとこの分野をしっかり勉強しておけばよかったな」って思うことがあります。だから短大のときのテキストは今でも見返していますよ。実習生に指導することもあるので。

 

「やっぱり、患者さんと信頼関係を築けたときはすごく嬉しいです」

——訪問歯科の現場で歯科衛生士として働いていて、心が動くときってありますか?

O:やっぱり患者さんに信頼されたときですかね。ご家族とか施設の職員さんから「岡田さん」って名前で呼んでもらえたときも嬉しいですね。そう、つい最近、認知症の方がたくさんいるグループホームに行ったときの話なんですけど、口の中を触られるのって誰でも嫌じゃないですか、最初はすごく嫌だったと思うんです。でもだんだん治療に慣れてきたとき、私の着ている水色のユニフォームを見た患者さんが「あ、あんた、今日は歯医者なんだね」って言ってくれたんですよ。それまでしっかりお話をして、治療を経て、コミュニケーションを重ねてきて、やっと患者さんにわかってもらえた、っていうのが嬉しくて。「そうですよー、今日は歯医者ですよー」って(笑)

——患者さんと、時間をかけて信頼関係を築くことができたんですね。

O:そういうとき、やっぱりすごく嬉しいですね。

——それは訪問歯科ならではのやり甲斐の部分かもしれないですね。

O:今は病院とかクリニックの中にいるだけじゃなくて、自分たちから外に出て行くことができますし、歯科衛生士の活躍の場はどんどん広がっています。通院していた患者さんが通院できなくなっても、その先も治療できる、関われる、患者さんの最後まで一緒にいられるっていうのは、本当に素晴らしいことだと思います。歯科衛生士もそういう時代になってきていると思うんです。

——岡田さんご自身は、これからどんなことを目指したいと思っていますか?

O:地域で活躍できる歯科衛生士になりたいと思っています。そのために、衛生士の勉強もそうですけど、それだけじゃなく、他の分野のことも幅広く学んでいけたらと思っています。

——とても頼もしいです。本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟病院

岡田 優香(Yuka OKADA)

日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科卒業。日本歯科大学新潟短期大学専攻科『在宅歯科医療学専攻』入学。修了後、日本歯科大学新潟病院に勤務。現在、訪問歯科口腔ケア科配属。「在宅ケア新潟クリニック」においても歯科衛生士として従事し、新潟市内のみならず、県央地域の要介護者の口腔衛生管理に携わっている。

インタビュー収録:2022年6月