ARTICLE NUM:014

歯科医師/戸谷 収二さん

最新知識やデータを全国に発信!
「口のかわき治療外来」の現在。

DR+DH+DT WORK STYLE|2022.09.13

——まずは「口のかわき治療外来」について教えてください。

戸谷先生(以下T):簡単に言うと、口がかわいて困っている患者さんを診察する外来ということになります。唾液が少ないとか、唾液があるんだけどかわきを感じるとか、そういう方を総合的に診る外来です。

——口のかわきというと、寝ているときに口が開いていて朝起きると口の中がかわいている感じがする、みたいなことは日常的にありますが、そのレベルでストレスを感じている人も対象になるのでしょうか。

T:そうです、「口がかわく」というキーワードがあれば、基本的にすべての方に対応する外来です。

——ちなみに口がかわいたり唾液に問題があると、どんな悪いことが起こるのですか?

T:唾液の成分がなくなったりすると、むし歯がふえたり、歯周病になったり、嚥下や会話の機能が衰えることがあります。もっとひどいときは誤嚥性肺炎といって、唾液の中の細菌が肺に落ちて肺炎を起こしてしまうことがあります。唾液っていうのは非常に大事なんです。

「口のかわきは高齢者に多いが、若い人も口のかわきを感じるときは要注意」

——口のかわき治療外来ということは、口の中が乾燥にしないように維持するということですよね?どんな治療を行うのですか?

T:治療で使うのは、唾液が少ない方の粘膜を潤すための薬や、保湿ジェル、スプレー、あと唾液が出るように刺激する内服薬、そういったものを組み合わせています。実際、唾液が少ない方にはそれで効果があるのですが、ただ「唾液が少ない感じがする」という感覚の方はちょっと難しくて……

——というと?

T:服用している薬の副作用であったり、精神的な問題で「乾燥感」を感じてしまうという患者さんもいらっしゃいます。そういう方には、唾液の量を調整する治療ではなくて、感覚を抑える治療が必要なんですね。つまり、私たちだけではできない治療もあるということです。他の科との連携も必要になりますし、ここはそれを見抜いて診断する場所ですね。

——なるほど。患者さんの年齢はどのくらいの方が多いのでしょうか。

T:60歳代から70歳代の高齢者がやはり多いですね。若い方の場合はその中に重篤な病気や合併症が関係している方もいらっしゃって、若いから口の中がかわいていても大丈夫だ、ということはないですね。注意が必要です。

——口のかわきには、食生活もやはり影響しますか?

T:影響しますね。特に柔らかいものを食事で摂っている方や歯がない方ですね。唾液って「咀嚼筋」という噛む筋肉で揉まれてポンプ作用で出てくるのですが、その筋肉が衰えると唾液が出てこなくなるんです。食事をするときに「よく噛め」と言われるのはそういうことなんです。

——あ、そうだったんですね。よく噛むのは食べものを細かくするためだけじゃなかったんですね……。

「最近の学生さんは真面目で知識が豊富。臨床の現場でも吸収が早い」

——先生が今、口のかわき治療外来にいらっしゃるのは、何かきっかけなどがあったのでしょうか。

T:私は元々、口腔外科といって、歯を抜くとか手術するとか口腔癌を扱うとか、そういうことが専門なんですけど、その中に「シェーグレン症候群」という病気がありまして、大学院のときにその研究をやったんです。それは、目がかわく、口がかわく、というのが二大症状なんですよ。口のかわき治療外来の乾燥の症状と一致するので、それで選ばれて代表的な立場でやらせてもらっています。

——診察の他に学生さんへの教育の方も?

T:学生さんとは、もう1年生から講義が始まって概略の説明、2年生で専門性の説明をして、3年4年で実習、5年生の病院実習で一緒に診察をして、というふうに常に一緒にいますよ。

——学生さんを指導をする際に心がけていることなどがあれば教えてください。

T:まずは興味を持ってほしいので、基本的には患者さんに、私たちがやっていることと同じことができるように指導しています。例えば検査ですね。一緒に検査をしたり、あるいは先に学生さんに検査をやってもらってその確認を一緒にしたり。それをやっていくと、学生さんの自信にもつながりますし、学生さんが「何でこれをやるんだろう」と考える力にもなりますしね。毎年、新しい治療法なども紹介して、将来の歯科医師の仕事に役立つようにやっていますね。約20年近くやっていると教え子もたくさんいますし、彼らから地方の学会に行ったときに声をかけられたりすることもあります。

——今の学生さんと20年前の学生さんで、変化を感じる部分はありますか?。

T:印象でいうと、今の学生さんは真面目で知識が豊富になったイメージがありますね。ある程度ちゃんと準備をしてから臨床に上がってくるので、スムーズで教えやすい、吸収が早いと感じています。

——先生のご出身は埼玉で、大学に入学するときに新潟に来られたということですが、こちらに来て感じたことがあれば教えてください。

T:まず食事が違いますね。美味しいです。来たばかりのときは、水もいいし、魚介類もいいしお酒も美味しいし、何もかもが新鮮で食生活が充実していましたね。冬は、埼玉に住んでいたときと比べて肌の乾燥がなくなったのがよかったです。あと雪道の運転が上手になりましたよね(笑)

——先ほどお聞きした「シェーグレン症候群」に出会ったのは大学院に進んでからですか?

T:大学院生のときのひとつ上の先輩がやっている研究だったんです。それを私が引き継ぐかたちでずっとやってきて、今はその学会の専門医みたいになっています。まあ、マイナーな学会なんですけどね。内科と眼科と口腔外科が主体となってやっています。

「数が少ないからこそ、新しい情報を全国に発信する立場に」

——臨床、研究、教育と忙しい日々を送られていると思いますが、お休みの日はどのようにリフレッシュされていますか?

T:休みの日は車の運転とかピアノとかをやってリラックスしていますね。冬場はスキーをやったり夏は海に行ったりもしますけど、ドライブをしている時間はけっこう長いですね。「うまく運転できた」っていう実感があると、そういうのが歯科治療につながることもあります。

——え、車の運転やピアノが歯科治療に?

T:手術の縫合の手の動きの訓練になったりしますし。年齢を重ねてくると若いときみたいに指が動かないんですよね。でも例えばピアノをやることによって動きがなめらかになるんですよ。日々の仕事への応用としても訓練になります。

——そうなんですね! ところで、大学病院で働かれていることのよさを実感することはありますか?

T:やはり新しい情報がすぐに届くことですね。その情報をさらに練って、自分から新しい情報を出すのが楽しみです。

——先生は歯科の最新情報を全国に発信するお立場なんですね。

T:口のかわき治療外来って全国でも数が少ないんですけど、逆に言えば新しい情報を発信できる立場なんです。私たちが新しいデータを発表して、それにみんながついてきてくれることを目指しています。今は超高齢化社会ですから、口がかわく患者さんは増えてきているんです。これからの学生さんには、それを検査したり診察したり、そういうことをここで経験して、将来、普通に口のかわきの症状を診られるようになってほしいんです。

——学生さんが先生の下で学ぶことで、将来その分野のリードオフマンみたいになれる可能性もあるわけですね! 本日はありがとうございました。

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟病院

戸谷収二(Shuji TOYA)

日本歯科大学新潟病院 副院長。教授・口腔外科科長、口のかわき治療外来医長。同学新潟生命歯学部 食育・健康科学講座併任。

インタビュー収録:2022年5月