ARTICLE NUM:015

歯科衛生士/土田 智子さん

人として尊敬される仕事、
「歯科衛生士」を誇りに感じて。

DR+DH+DT WORK STYLE|2022.10.20

——まずは現在のお仕事について伺います。

土田さん(以下T):教員をはじめて今年でちょうど20年目になります。

——20年となると、教える学生さんも最初の頃と比べてだいぶ変わったのではないでしょうか。

T:もちろん自分の捉え方が変わったのもありますが、学生さんも変わってきたなと思いますね。今の子はとても真面目です。以前よりもの怖じせずに発言できるタイプの子が多いなと感じています。あと、私がまだ学生だったときは、出された課題があってもギリギリまでやらないタイプだったんですけど……(笑)、今の学生さんは課題を出されたその日からスケジュールをちゃんとこなしていくんです。素晴らしいなと思っています。

——「歯科衛生士」という職業にも向き不向きってあるかと思うのですが、適性のある学生さんとない学生さん、というのは正直なところ、感じることがありますか?

T:入学したての1年生のときは「ちょっと苦しみそうだな」っていう学生さんもいるんですけど、でもそういう子は現場に行くと化けるというか、私たちが学内で見ている様子と現場の評価でだいぶ差があることもあるんです。だから、一概に向き不向きを決めつけられないなと思いますね。逆に、すごく伸びそうだと思っている学生さんでも、ちょっとしたことで躓くこともありますし。特にメンタル面でのフォローは必要だなと感じています。

——やはりひとりひとり、違うわけですね。

T:そうですね。だから、求められる声かけをしなければというのと、あとはやっぱり教員も人間なので、それぞれ得意な分野があったりしますから、この短大ではうまく教員同士が連携をとって、必要なときに必要な先生に話しかけてもらったりとか、コミュニケーションを大切にしています。

——ちなみに先生は?

T:私ですか? 私はどちらかというと「ポジティブ」とか「楽しそう」とかよく言われるので、そんな感じで勇気づけるというか、「あまり後ろ向きに考えなくていいよ」とアドバイスをする担当、という感じです(笑)

「患者さんの素直な言葉を聞けると、この仕事を選んでよかったと思えます」

——基本的には、教えることがメインということですが、他のお仕事もあるのですか?

T:教育が主になるんですが、それ以外には研究と臨床ですね。自分が担当している患者さんもいらっしゃるので。「あなたの元気そうな顔を見ると私も元気が出るよ」と患者さんにおっしゃってもらえたりすると、歯科衛生士という仕事を選んでよかったなと本当に思いますね。大人なると、そんなに素直に言葉にしてもらえることってなかなかないので。

——研究というのは、先生はどういったことをされているんですか?

T:今は舌(ぜつ)の研究をしています。例えばプラークって、赤く染色したりすると、どこについているか分かるじゃないですか。でも舌って舌磨きをしても、どのくらい汚れがついているか、どこまで落とせば正解なのかって患者さんではなかなか判断が難しいですよね。だからそれを見分けられるように、舌につく細菌が放つ光を捉えよう、という研究をしています。

——将来、すごく世の中の役に立ちそうですね!

T:ゆくゆくは、スマホで自分の舌を撮影したら自分でチェックができる、みたいな便利なものにたどり着けたらいいなと思っています。研究で新たな発見があるのは本当にワクワクしますよ。それをまとめて発信するのも、教員としての自分の役割だと思っています。

——歯科衛生士になろう、この世界に入ろう、と決めた理由を教えてください。

T:私はすごい山奥の方で生まれたんです。お医者さんにかかるのも1時間とか2時間くらいかけて行かなきゃいけないところで、いろいろ不便だったんです。だから医療系の仕事をしたら何か役に立てるんじゃないかって思ったんです。ちょうどそのときに『ナースのお仕事』とかのドラマを見て、ああいう世界にちょっと憧れて「看護師やろう」って思ったんですけど……、でも血を見られなくて(笑)。血が出ない医療系を探そう、歯科なら、と思って決めたんです。でもそれはまったくの見当違いでしたね(笑)

——歯科の学びをはじめて、好きな授業はありましたか?

T:私が好きだった授業は「歯周病学」ですね。教えてくださった先生のお話がとにかく面白かったんですよ。しかも歯科衛生士という職業をすごく尊敬してくださる方で。その授業はとても楽しかったです。

——卒業試験や国家試験はどうでしたか?

T:努力しましたね。一緒にいた友人がとにかく勉強ができる人だったので、その人にいろいろ教えてもらって。合宿のように、テスト週間はもう一緒に住む! そんな感じでやってました。お互いに教え合って勉強して、眠くなったら夜は散歩に行こう!みたいな。

 

「患者さんの気持ちを汲み取る力を持つ若い衛生士さんの活躍が、本当に誇らしい」

——今のお仕事のやり甲斐についても教えてください。

T:自分が歯科衛生士になろうと思ったきっかけはそんな感じだったんですけど、今は、私は歯科衛生士の仕事のやり甲斐を発信していかなきゃいけない立場なんですね。ただ逆に、学生さんたちの方が「こういうところがすごいと思って歯科衛生士になろうと思った」って教えてくれたりもするんですね。例えば、介護が必要とされる方と一緒に暮らしている学生さんもいて、その子が言うには、「訪問診療で歯科医師の先生についてきた衛生士さんが患者さんと何気ない会話をする、その様子を見て、話を聞いてくれる職業って素敵だなと思いました」って。それを聞いたときに、歯科の知識や技術のことだけじゃなくて、人として素晴らしいと思ってもらえる職業でよかったな、って感じたんです。患者さんの気持ちを汲み取る力を持っている若い衛生士さんたちが今はいっぱいいて、そういう衛生士さんたちの活躍を誇りに思えて、本当に嬉しかったんですね。そういう子たちをちゃんと育てられる学校にしていかなきゃなって思っています。

——学生さんたちと接することが楽しそうですよね。

T:入学してから卒業までの3年間ってすごく濃密じゃないですか。ついこのあいだまで高校生だったのに、臨床実習を行って、国試を受けて、その短い期間の中で自分の技術力のなさに悩んだり、人間関係で悩んだり、でもそんな中で成長してゆく学生の姿を見られるのは、教員としてここにいるからこそ、と思うんです。学生を見守りながら、その成長を見られることが楽しいと感じますね。

——卒業した教え子の方とまた再会したり、時間が経ってから話をしたり、そういうこともありますか?

T:それがいちばん楽しいです。学校にいるときはしゃべれないことってあるじゃないですか。それをようやく話せる、みたいなのがとても嬉しいです。

——最後に、これから歯科衛生士を目指す高校生にメッセージをお願いします。

T:「たらいの法則」という言葉をある講演会で聞いたんです。たらいの水を「こっちへ来い」と自分に寄せようとすると水は反対方向に流れてしまい、逆に「どうぞ」と押し出すと、水は自分の方に戻ってくる。幸福や利益を独り占めしようとすると逃げてしまうけれど、相手のために尽くすと幸福は自然とやってくるという意味だそうです。医療従事者の皆さんはとてもまじめな方が多いので、たらいの原理の「どうぞ」をしなければ!という使命感が強いはずです。その「どうぞ」という行為が、「自分の考えがベストである」という傲慢さに陥っていないか、相手を思いやる気持ちを忘れずに、一人ひとりの患者様を笑顔にできる歯科衛生士さんになってもらいたいですし、私自身もそうでありたいと思っています。

——インタビューをさせていただいて、先生が学生さんに慕われる理由が分かったような気がします。本日はありがとうございました!

DR+DH+DT WORK STYLE

日本歯科大学新潟短期大学

土田 智子(Satoko TSUCHIDA)

日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科卒業。日本歯科大学新潟短期大学専攻科入学。修了後、日本歯科大学新潟短期大学にて勤務。担当教科は歯科診療補助、看護介護実習。

インタビュー収録:2022年6月